歯科医院で人を雇うとなると必ずぶつかるのが「従業員の健康保険をどうするか」問題。実は個人開業の歯科医院は業種的に社会保険の強制適用業種ではないので、法人化していなければ選択肢が3つある。それぞれ全然性格が違うので、雇う人数や医院の状況で選ぶべきものが変わってくる。
国民健康保険
いわゆる「国保」。自治体(市区町村)が運営していて、会社の社会保険に入っていない自営業者・無職・パートなどが加入するやつ。何もしなければ従業員は基本的にここに加入することになる。
- 医院側の保険料負担は一切ない。全額本人負担なので、雇う側からすればコストはゼロ
- 保険料は前年の所得+均等割・平等割などで計算され、自治体によって金額がバラバラ
- 扶養の概念がないので、家族がいれば世帯全員分の保険料がかかる(国保は世帯単位で計算)
- 傷病手当金・出産手当金は基本的に無い(自治体によっては新型コロナ特例のような臨時給付があった程度)
- セットになる年金は国民年金のみ(厚生年金には入れない)
医院側の負担はゼロだが、従業員から見ると保障が一番薄い。人を集めたい・定着させたいと思うなら、これだけで済ませるのは正直厳しいと思う。
歯科医師国保
都道府県ごとの歯科医師国民健康保険組合が運営する、業界特化型の国保。院長(歯科医師)がその地域の歯科医師会・国保組合の組合員であることが前提で、スタッフもまとめて加入させられる。
- 加入できるのは常時従業員4名以下の医院のみ。5名以上になると強制的に協会けんぽへ切り替えが必要になる
- 保険料は所得に関係なく定額(本人・家族・子どもでそれぞれ決まった額の区分がある、金額は都道府県の組合ごとに異なる)。売上や給料が上がっても保険料は変わらないので、稼げる医院ほど割安に感じる
- こちらも扶養の概念がなく、加入者の頭数分だけ保険料がかかる(ただし定額なので国保ほど跳ね上がらない)
- 傷病手当金・出産手当金は組合によって限定的(あっても日額1,500〜4,000円程度の見舞金的なもので、協会けんぽほど手厚くない)。産休中の保険料免除も無い場合が多い
- 年金は国民年金のみ(厚生年金は無い)
- 細かい話だが、自分の医院で保険証を使って自分のところの治療を受けることはできない
保険料が定額=医院の負担(=そもそも歯科医師国保は原則本人払いで医院側の法定負担はないことが多いが、福利厚生として医院が一部補助しているところもある)が売上・給料に連動しないのが最大のメリット。スタッフが4人以下の小規模医院なら、コストが読みやすいという点でかなり合理的な選択肢だと思う。
全国健康保険協会(協会けんぽ)
いわゆる「社会保険」。医療法人化すれば人数に関係なく強制加入、個人開業でも任意で加入することができる(5人以上の個人事業所は業種によって強制適用になるが、医療業は歴史的に強制適用業種から外れているため、個人の歯科医院はスタッフが何人いても法律上は強制ではない。ただし任意適用で加入することは可能)。
- 保険料は給与額(標準報酬月額)に比例して決まり、医院と従業員で半分ずつ負担(労使折半)
- 厚生年金とセットで加入することになる(保険料もこちらも労使折半)ので、医院側の実質負担は国保系よりかなり重くなる
- 扶養の制度があるので、収入の少ない配偶者や子どもは追加保険料なしで被扶養者にできる
- 傷病手当金(給与の約3分の2を最長1年6ヶ月)・出産手当金・産休育休中の保険料免除など、保障は一番手厚い
- 採用面で「社会保険完備」と書けるので、求人でのアピール力は一番強い
保障は一番いいが、その分医院の人件費負担(法定福利費)が給料の約15%前後(健康保険+厚生年金の会社負担分合計、健康保険料率・厚生年金保険料率は年度・都道府県により変動)増えると考えていい。スタッフが増えてくる、あるいは医療法人化を考えているなら避けて通れない道になる。
結局どれを選ぶべきか
個人開業で4人以下のスタッフしかいないなら歯科医師国保がコスト面で一番現実的だと思う。人を増やして5人を超えたり、医療法人化を視野に入れているなら協会けんぽ一択(というか強制)になる。何も手続きをしなければ従業員は国民健康保険に個人で入ることになるが、保障が薄く採用でも不利になるので、積極的に選ぶメリットはあまりない。


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